「はぁ?」
それはまさに青天の霹靂。
思わずおかしな声をあげてしまう位、唐突だった。
bolt
「だから、クルーゼ隊の所属にきまったの。」
そいつはそう言って、”コツン”とチェスのコマを動かした。
むかつくくらいに平然としながら。
そいつは・・・キラは、
アスランがイージスで無理矢理捕獲したストライクに乗っていたパイロットだった。
それがなぜか、艦になじんでしまっているのは、
多分、キラの幼馴染で、キラを連れてきた張本人であるアスラン・ザラ、
あいつの影響だけではないだろう。
なぜなら、アスランだけにとどまらず、
ニコル・ディアッカ・ラスティー・・・この同僚達も、彼に好意的に接しているから・・・・。
かくゆう俺も、まあ、甘いのだろう。
こうしてひまな時に、一緒にチェスをするなんて・・・
攻撃をはじめた頃には思っていなかっただろう事を、平然としている。
それはもともと、キラ・ヤマト。
そいつの持っている人間性故。
とりあえず、冷静になろうと、俺はチェス板を睨みつけた。
クルーゼ隊に所属?
じゃあ、いままで守ってきた物は・・・?
ずっと苦しんでいたことは、多分、一目見たときからわかっていたこと。
ぐるぐると、わけのわからない頭の中で、チェスに集中しようとするが、全く持って効果は無い。
とりあえず”コツン”と、コマを動かし、平静を装って問い掛ける。
「で、何をするんだ?OS担当になるのか?」
「パイロットだよ。」
「・・・・・・・・・・何の・・・・・?!」
「ストライクに決まってるじゃない」
にっこりと微笑む姿は、まるで・・・・
「な!!何を考えている!?どうして、だっておまえっ!!!」
「イザーク、チェスボードが倒れるよ。」
おっとりと言われた注意など耳に入らない。
「いままで・・・・」
今までしてきたことは?
と、問いたくなるのを、俺はこらえた。
どうしようもなくて、佇む俺にキラは、小さく笑いかけた。
「ほんと、イザークは可愛いよね。」
そういって、”コツン”とコマを動かした。
「チェックメイト」
「あっ!!」
「イザーク、ちがうことに気を取られるから、へんなポカをするんだよ?」
「・・・・・でも・・・・・」
「なに?」
「いいのか。おまえはそれで。」
目の前のそいつは、ゆるやかに微笑んでいる。
でも、その笑顔は偽りの無い物だなんて、俺には言い切れない。
「おまえは、守ってきたんだろ?大切な存在だったのだろう??それを・・・・・・」
「大切だよ。今でもそう思ってる。守りたいって思ってる。」
「・・・・」
ふふっと笑って、キラはそっと立ち上がった。
「イザークはほんと、優しいよね。」
「なっ何をいきなりっ・・・・!」
「その上すっごく可愛い。」
「!!?」
キラは唐突に顔を近づけてきたかと思うと、チュッと唇に触れるだけのキスをした。
「キ・・・・ん・・・・・」
キラ、と言おうとしたのか、
それとも貴様、と言おうとしたのかわからないままに、
キラからされるキスに、翻弄される。
二度目のキスは、触れるだけではなく、深く深く貪るようにされるキス。
抗おうにも、いつの間にかホールドされた腰と肩。
特に腕力があるわけでもないのに、身動きが取れないのは、
こいつが、丁度身動きの取れないような絶好の角度でそこを抑えているせい。
しかし、そんな事を考えることが出来るのも、はじめの数秒。
なかなか離されない唇。
息をするのもままならなくて、その上、段々・・・・。
「はあっ・・はっ・・・・はっ・・・」
ようやく解放された唇から、イザークは足りない酸素を懸命に取り込む。
「イザーク?大丈夫??」
背が低いため、キラは覗き込むようにイザークの顔を見る。
「だ・・・・大丈夫じゃない!!い、いきなり何を!!!?」
「ダイジョブみたいだね。元気じゃん。」
いたずらっ子のように笑うキラに、心底脱力しつつ、イザークはとりあえずキラを睨みつけた。
口で言って敵うような相手ではないのだ・・・・初めから。
「ねえ、イザーク?僕は、パイロットになることで、自由に出来る権利を得たんだよ。」
「??」
「戦いで、相手を生かすか、殺すかの・・・ね。
幸い、もともとザフトの方が有利だったんだ。だからね・・・」
「・・・・・」
まったく、俺は結局こいつに手を貸さなくちゃいけないんだ。
いつもいつも、チェスでは負けるし。
なぜか口では勝てない。
優しげに見えて、実はすごく性格の悪いキラ。
でも・・・・
「イザーク・・・・」
「・・・・あ〜!もう!!わかったよ、手伝ってやる。お前の事だ、もう策はあるんだろ?」
「ほんと!!?」
「べ・・・別に、お前の為じゃないからな!
AAが手に入れば、ザフトに有益な戦力が増えるんだ。だから、べつに」
「わかってる!ありがとう。」
いつもとは違う、すごく綺麗な笑顔で、キラは笑う。
ほんとに嬉しそうに・・・・・。
「・・・そ・・・そろそろ、訓練の時間だ。」
「え、あ、イザーク?!」
どうしてか、キラの笑顔に幸せと、別の感情が出てくる。
どうしていいのかわからず、逃げるようにそこから遠ざかろうとした。
確かに、訓練はもうすぐあるし、嘘はいってない。
自分に、いいわけじみた言葉で言い聞かせる。
急がなきゃいけないわけじゃないけど、それでも・・・・。
ずんずんと廊下をすごい勢いで歩く彼は、真っ赤な顔をしていたのだが、
それを知るのは、途中ですれ違った少数のクルーであった。