BREATHLESS U 〜天宮〜
濃厚な血の匂い。
赤と青のコントラスト。
息を呑むほど青を引き立たせる美しさ。
それは、皮肉なくらい澄みきった青空。
「やめて!キラは何にもしてないじゃい!!」
キラは・・・いつもいつも誰かのために戦って、誰かのために心をすり減らして。
どうして傷つかなければならないのだろう?
この優しくて、純粋な彼だけが、犠牲になどなってしまうのだろう?
切ないくらいの叫び。
血を吐くような少女の声はしかし、誰の心にも届かなくて。
「五月蝿い!!」
ガウンッ ガウンッ
男は叫び、地へと威嚇の銃痕を刻み付ける。
「キャアアア!!」
「うわあっ!」
誰に当たるでもないその痕は、それでも恐怖を植え付けるには十分で、十分すぎるほどで・・・。
サイ・トール・ミリアリアの三人は、真っ青な顔で立ちすくむ。
どうして僕はココにいるのだろう?
戦いなんて望んじゃいないのに。
ただ、守りたかっただけなのに。
この優しい友人達を・・・・。
「このコーディネーターめ!!」
そう言って、なぜ攻められるのだろう?
ついこの前まで同じ艦で過ごしてきたのに。
僕が、コーディネーターだから?
何もしてなくても
危害を加えたことなんてなくても
コーディネーターだから・・・。
望んでもいない戦いに加わって、一番大切な人にあんなに苦しい顔を・思いをさせて、それでも僕はココにいるのに
それでも足りないというの?
何を望むというの?
僕は、僕の心をこんなに捻じ曲げたのに。
ガウンッ ガウンッ ガウンッ
「!!い・・イヤアアアア!!トール!トール!?」
赤い血が飛び散る。
悲壮な悲鳴。
優しかった友人の体が落ちる。
もう何人同じ末路を辿っただろう?
キラをかばったために撃ちぬかれた身体。
凍りつく体。
動くことを忘れた細胞たち。
赤く染まった地を見るのが苦しくて、見上げた空は、何事も無く澄み切っていた。
天は何をするわけではないのだと、まるで言うように
ただただ蒼く見下ろすのだ。
空高く響く銃声。
赤い光景を前に、イザークは駆け出した。
岩場の向こう。
なにがあるかは分からない。
しかし、もし攻撃を受けているのが同胞でないと、どうして言えよう?
もしかすると、此処で、見過ごして誰かが死んでしまうかもしれなくて、どうして見過ごせるというのだろう?
イザークはそっと岩の陰から顔を覗かせ、そこを見た。
誰も背後に気を配っていないことを見、又駆け出そうと、体勢を低くした。
人数的には辛いかもしれないが、不意をつけば・・・と、足に力をこめ、大地を蹴る。
閉じることはない。
でも、何かを見るということもない虚ろな瞳。
キラはもう、全てを諦め、放棄しようとしていた。
何のために此処に居るのか分からない。
だから・・・・。
「キラ、キラだけでも逃げるんだ。」
サイの必死な声も、ミリアリアの悲痛な叫びも、今はもう彼には届かない。
「ぐ・・・」
「うわぁっ」
それほど大きくもない声と共に、ドサドサッと何かが地に落ちる音がした。
その音に、今までこちらの出方に神経を集中していた、人々の関心がそれた。
サイはミリアリアを立たせ、キラを任せたと、言い置き、背を見せる人々に手刀を叩き込んだ。
「おまえっ!!」
「このお!」
「殺せっ。そいつを殺すんだ!!!」
激昂する人々、でも、その反対からくる何者かに、戸惑いの色を隠せず、サイは自分の優勢を信じた。
軍に志願する少し前から、サイはずっと頑張ってきた。
実際使うとは思っていなかったが、体を鍛えてもきたのだ。
どうしてこんなことになったんだ!
サイは叫びたかった。
だってそれは、あいては、AAで親切にしてくれた人々で。
一緒に過ごしてきた人たちで。
もう何がなんだかわからなくても、それでもここまできてしまったのだ。
進むしかないこの現状に、只、舌打ちする。
「こっちだ!!」
よく通る声が、ようやく通じた道から三人を導いた。
その光景は・・・・
キラは虚ろな瞳に、唯光を見た。
駆け抜ける。
赤い岩場の中。
その赤は、大地の色なのか、人の業の生んだ色なのか・・・。
混乱した頭ではもう、判別など出来なかった。
赤い砂に
赤い血が溶け込む。
そして深く深く染み込んで・・・・
天は蒼く。
地は紅く。
そして、とても残酷。