BREATHLESS W 〜迷走〜
血を流すということ
命が流れるということ
貴方が死んだということ・・・・。
何処にも居ない貴方を、今でもこうして探している。
何処に居るはずもない貴方を、今もこうして求めてしまう・・・。
その日もその人は眠っていた。
現実を、全てを、生きることを、無言のまま放棄しようと、主張するかのように・・・。
「ミリィ」
「あ、サイ。」
「様子は?全然?」
白い部屋、サイはミリアリアに問い掛けた。
何がといわなくても、目配せだけでわかる。
いや、それがなくても、問うことはわかりきっているから・・・。
その部屋の主を、二人は見る。
未だ目覚めぬ、紫電の瞳。
目ざめを拒否するその姿は、只静かに、死を受けようというもので・・・
もう、一週間も目を覚まさない。
一週間前・・・
彼は正気ではないままに、MSを操縦した。
只それは、それまでの彼の意思を主張するかのように。
もうろうとする意識の中で、少女はそれでも果敢に歩を進めようとしていた。
流れた血の量は、想像だにしない物であっただろうに・・・
しかし、その頑張りもすでに限界であった。
生態的にも、そろそろ限界であるほどの血を、大地に落としていったのだから・・・・
はあはあ はあはあ・・・
目の前にあるはずの風景
そこに有るはずの存在
もう、霞んだ目には見えていない。
上がった息
もう走るのも限界で、でも、誰の足も引っ張りたくなくて、その手を離して足を止めようとした。
「何をしている!」
まだ聞こえる。
声と共に、力強い手が腕を引いた。
「は・・離して・・・」
「離すわけないだろう!?」
「だって、これ以上・・・私はもう。」
泣きそうになる。
足手まといはごめんだった。
自分のせいで、誰かが死んだりするのは嫌だ。
だから・・・
「撃たれたからって止まるな!」
キラが生かそうとしていた人間。
そして、キラを生かそうとした人間。
キラのため・・・・・其れだけが・・・其の動機だけが、今の俺を動かす。
キラのために、そういうその人は、一体誰なのか・・・
私は必死に記憶を探る。
どこかで・・・いつか・・・
「?!!あなた・・・。」
「ぐずぐずしてるひまは無い!・・・しょうがないな。暴れるなよ。」
尊大な言葉
「??」
何をしようというのか、もう、ほとんどの器官が麻痺した状態では良くわからなかったが、いきなり来た浮遊感と、腕の力強さに、抱えあげられたことがわかった。
走りつづける中、ようやくストライクのある場所までは来ることが出来た。
だが、皆息は上がっていて、これ以上先は逃げきれるかがわからなかった。
「・・・アスラン。これを言うのは癪だが、貴様なら、こいつの解析できるんじゃないか?」
「無理だな。」
間髪居れずに答えたアスランを、イザークは睨みつけた。
「見もせずに、無理とどうして言える!!貴様は・・・!」
「見なくてもわかる。俺ぐらいの力量じゃ、無理だ。」
そう言って、岩の上に座らせた虚ろな瞳の少年の頭を、いとおしそうになでた。
「もういい!俺独りでやってみるさ!!」
真っ赤になって怒るイザークに、アスランは勝手にすればと、人事のように受け流す。
しかし、時間はないのだ。
ストライクを動かす事が出来れば助かるが、そうじゃなければ、このまま先を急いでも、逃げ切れるかはわからない。
「・・・とりあえず、キラもコックピットの中に連れてった方がいいかもな。」
「そうだね。何かあったとき、キラだけでも逃げられれば・・・。」
「?そいつはキラというのか?」
「え・・・あ、はい。」
「・・・」
「?」
「いや、なんでもない。」
イザークは何かを言いかけ、やめた。
キラ…
その存在は、イザークに憎しみとも、妬心とも付かない思いを掻き立てさせるものだった。
その存在だけが、凍りついた心の唯一の・・・・
傍らで放心したままのそいつを、横目で見ながらディスプレイを見る。
今の状況で、どうすれば生き残れるか。
どうやって生き残るか。
それこそが今考えるべきことだというのに・・・・・
どうしようもない焦燥の中、それを動かすためのカギを探す。
何かを知っているようだったな・・・あの三人・・・・
一人、何も知らない孤独感もあいまって、重くのしかかる心。
赤い赤い風景と、蒼い蒼い空の下
虚ろな瞳の見守る中、銀の光は揺れていた
ガウンツ ガウンッ
「!!」
唐突に聞こえた銃声。
もう追いついたのかと舌打ちしつつ、イザークは冷や汗を流した。
これ以上時間を無碍にできないと、早くしなければと焦るほど、苛立ちが募る。
「くそっ!これでもダメか。」
キーを叩きながら悪態を付く。
どうすればいい?
イザークの横顔からは、そんな思いが見て取れた。
どうすれば生き残れる?
どうすれば守れる?
どうすれば・・・・・
――何のために?
「どうして・・・・諦めないの・・・・?」
「そんなの、死なせたくないからに決まってるだろ!!・・・・・って・・・・おまえ??!」
「死なせたく・・・・ない・・・・・」
―――何のために?
突然の、キラの動きにイザークは目を見開くが、当の本人はまだ、自我を取り戻したとはいえなくて、虚ろな瞳のまま、キーを叩いた。
―――僕が闘う本当の意味
其の動きにイザークはしばし呆然としつつ、其の場所を明け渡した。
突如動き出したストライクに、あるものは逃げ惑い、またあるものはささやか過ぎる意味の無い攻撃を加えつづけた。
―――僕は・・・・・コーディネーター・・・・・だから・・・・・?
誰かが叫んだ。
青き清浄なる世界のために!!
そして、大地は赤く赤く染まりつづけた。
どうして涙が悲しみを表すと言うのだろう?
どうして笑顔が幸せを示すと言うのだろう?
人が人であること
自分が自分であること
それは本人が分かっていればいいのではないのだろうか・・・・・?