それでも平和な僕らの日常  1






戦争を回避するシステム



だから仕方が無いことは分かっている。
でも、戦いはきらいだ。





戦績表を見て、今日もまた溜め息をついた。


 どうして僕、こんなふうなんだろう?


戦いは嫌いだった。
でも、手を抜くことはできなかった。

 アスランは優秀だから・・・・・。





「キラー!」

後方から聞こえた聞きなれた声に振り返った。
訓練の服装のままの幼馴染が、微笑んで駆け寄ってくるのが見えた。

「アスラン。」
「今日の戦績どうだった?」
「ん・・・まあ、いつもどうり。」

そんなこと言えるはずない。
だから、少し曖昧に笑ってアスランは?と問う。

「ああ、今日はいつもより調子が良かった。」
「そう・・・」


アスランは優秀だから、毎回選ばれている。
この学院の生徒のみで行われる、ナチュラル対コーディネーターのMSの模擬戦。


年に四回
戦争をしない代わりの、学生を使ったチェス遊びだった。
大人たちは、自分たちの作った最高の人材により、其の種の優位性を示そうというのだ。
その結果は、一つの季節分の期間の政治の優位性を示すものとなる。

だから、大人たちは必死だった。
優秀な人材をこのカレッジに集めるのに・・・。

そして、其の行為は、ナチュラル・コーディネーター間の溝を広げるばかりのものだった。

それは僕には辛かった。
僕のような一世代目のコーディネーターには――。



僕は、手を抜くことはできない。
だって、アスランに危険なことがあったら嫌だから・・・。

でも、たまに辛くなる、僕には、ナチュラルの友人だっている。


それでも、アスランは大切な幼馴染だから・・・。


アスランは本当に優秀で、だからこそ、僕はこのままこのトップの座を静かに守っていかなくちゃいけないんだ。
だって、これ以上君が危険な場所にいるのは嫌だから。

手を抜くことはいくらでもできる。
でもそうすれば、トップにくるのは、アスランかイザークしかいないもの。



大抵、出場する選手は極秘であった。
色々理由はあるのだが、その際たる物は、選手の身の安全。
それしかないだろう。





 どうあっても、大人は勝ちたいだろうからね。



「今回も、選ばれそうなの?」
「それは聞いちゃいけないことだろ?」
「うん、そうだったね。」



笑いながら、更衣室へと向かった。
戦績表は、お互いには見せない。

というか、僕が強固な態度を取るから、自然そうなったのだ。


 ガチャ


「?」

更衣室に入ると、いつもと違った異様な雰囲気だった。
いつもなら、学生のどうでもいい会話でうるさいくらいの更衣室が、今日は異状だって程に其の喧騒が無い。

「何かあったのかな?」
「さあな。でも、俺等には関係ないことだろう。」

ほんと、興味ないものにはとことん何の反応も示さないアスランに、少しあきれつつも、少し向こうに見えた、友達の姿を見て、そこへ近づいた。

「トール」

軽くポン、と肩を叩いて挨拶をするキラのナナメよこに、アスランもついてきながら、目だけで、トールに挨拶をする。

「あ、キラか。」

振り返り、其の存在を認識したトールは、微妙にはっていた緊張を解いた。

「何かあったの?」
「さあ、良くわかんないけど、新しく入ったやつがいるんだけど、そいつらの態度がすっげ怖くてさ、皆ビビってんだよ。」
「ふーん。どれ?」

トールの話を聞いていただろうとツッコミを入れたくなるほど、キラの態度は軽い物だった。

「其の新しく入ったのって、どこにいるの?」
「見りゃすぐ分かるよ。」

其の態度にもうなれてしまったトールは、あきれながら、肩をすくめた。

キラは、いつもより人がひしめいている更衣室を移動し、其の目標物を捕えた。
確かに、すぐにそれとわかった。

其の半径1メートル位になにか張っているのではないかと思われるくらいに、見事に人のいない場所がぽっかりとあいていたのだ。

其の中心には、三人の、鮮やかな色彩を持つ同じ年の少年達。


 ふ〜ん・・・別に、普通じゃないかな?

不敵にも、キラはそんな事を思った。

「ね、アスラン、別に普通だよね。あの三人。」
「ああ、そうだな。」

はっきり言えば、アスランの態度は、どうでもいいと言った物だった。
だが、とりあえず相槌を打ったのは、さっさと着替えてしまいたかったからだ。

「んじゃ、いっか?」
「別にかまわないが?」

最小限の言葉を交わし、二人は人垣から出た。

「あうう、疲れた。早く着替えちゃおっか」
「そうだな、次の授業はなんだった?」


ザワザワと騒ぐ野次馬には目もくれずに、二人はいつも通り、普通に着替え、会話していた。
避けられていた三人は、なんとなく其の二人に注目した。


さっきからわさわさと、遠巻きに眺めるだけのやつらとは違い、全く自分たちに注意も何もはらわず、それどころか、回りすら気にならないような図太い神経の持ち主だ。
気にするな。と言うほうが、土台無理な話なのだ。

しかも、其の二人の容姿は、そんな状況下でなくとも目立つ物だ。

三人は、其の二人を眺めるともなく眺め、支度し終えるとバラバラと歩き去る。


オレンジの髪の少年と、金髪のオールバックの少年が出て行った結構あとに、緑の髪の少年も支度を終え、出て行こうとする。

「ねえ、君ら新しく此処に編入してきたって聞いたけど、一緒にってことは、兄弟かなにか?」

そんな折、丁度着替え終わりアスランを待つのみとなったキラが、大胆にも少年に話し掛けた。
"ザワッ!"
そんなキラの態度に、周りは更にどよめいた。
しかし、二人はそんな周りの事などミジンコほどにも気にしていない。

「・・・・・」

沈黙。

「其の髪地毛?緑の髪って、珍しいよね?」
「・・・・・」

さらに沈黙。

「僕ニコルくらいしか緑の髪って見たこと無いや。あ、でも君のはニコルのより薄い色だよね。」

だが、沈黙しつづける少年のことなどこれっぽっちも気にしないで、キラは話しつづける。

「・・・・・」
「ニコルって知ってる?僕らより一学年下なんだけど、可愛い顔した子なんだ。」
「・・・・ウザーイ」

今まで何も言わなかった少年からの一言。
それでもキラは全く気にもとめなかった。

「うん?五月蝿かった?なら別に無視して行っちゃってもかまわなかったのに。」

にこにこと、全く悪びれる様子も無く、キラは其の姿勢を崩さない。

「キラ、待たせたな。」
「ううん、別に。それじゃあまたね。」

そう言うと、笑いながらひらひらと手を振って、キラはアスランと連れ立って更衣室を出た。


「・・・よくわかんないやつ」

シャニはぽつりとつぶやき、また歩き出した。



五人のいなくなった更衣室は、其の直後、火を付けたような騒ぎだったという。