それでも平和な僕らの日常   5






いつもは二チームのMSが戦いあう模擬戦に、オーブが加わる。
そういう噂の後に全校生徒に対し学校側から交付されたそれに、ナチュラル、コーディネーター共に、戸惑いを隠せなかった。

学校内は、異様な雰囲気に包まれていた。



「トール!ねぇ、トールってば!」
「えっ!?な、なに?」
「なに?じゃ、無いわよ!さっきから聞いてるじゃない。」

ふてくされたように隣りに座る彼女・・・ミリアリアはそっぽを向く。

「悪かったって、な?」
「・・・・・」
「ご〜め〜ん。このとーリ、な?許してよ。」

手を合わせて拝むように謝る俺に、ミリィは、『まったくも〜』と、いった感じに溜め息をつき、俺に向き直る。

「だからね、トールも、オーブ側に行くよね?って・・・」

ミリアリアは躊躇いながら聞いてくる。
いま、この話題は、生徒間ではかなり慎重に扱われている。
事が、事だけに・・・

「・・・ああ、其のつもり・・・だけど・・・」
「キラ、如何するのかな。」
「あいつは、コーディネーター側なんじゃないか?」
「何でよー。」
「だって、両親ナチュラルだけどさ、本人はコーディネーターだし、アスラン・・・・・いるじゃん?」

そう、アスランはキラの幼なじみ。
かなり幼い頃からの付き合いだという。
だが、一時期、このカレッジに来る前のほんの数年、二人は別々に過したという。
此処で再会してからは、とても、数年はなれていたとは思えないくらいに、息が合っている姿を見てきた。

「でも、でも・・・」
「ミリィ、俺たちキラじゃないんだぜ?キラは、きっと悩んでると思う。だからさ」
「そうね。」

ミリアリアは苦笑し、そろそろ行こうか?と、立ち上がった。

摸擬戦が一ヶ月後に迫った今、三チームに分かれてそろそろ選手決めとなる。
今日の授業は多分・・・


僕らは、本当の戦時中の戦場を知らない。
でも、此処こそが、僕らの戦いの場。
戦わなければならない。
僕らにとっては、戦場なのだ。




授業中、其の日僕らは驚きの声を上げることとなった。

「あれってファースト?」
「何でいるの・・・?」
「これって・・・」

ザワザワと皆が遠巻きに見ている。
そいつは、今まで一度も顔を見せないできた、コーディネーター最強のパイロット。
必ずトップの戦績で、勝ち抜き戦では必ず大半の機体を沈めている、そんな伝説的な強さを持つパイロット。
もう、卒業までトップにいるであろうと予想されてきた其のパイロットは、専用の機体まで与えられてきたというのに。

「うそぉ」
「まじかよ」

俺たちも驚く。
ファーストというあだ名は、このカレッジ中に響き渡っている。
其の出所は知らないが、多分、勝ち抜き戦では必ず初めに出されるから・・・とか、其の辺りだろう。

そして俺らに衝撃を与えた彼は、静かな湖面のような、静寂な雰囲気を纏い、其処に佇んでいる。


「皆静かにー!」

女性らしい声を張り上げて言われたラミアス先生の声で、授業はスタートした。

「では、出席を取ります。自分のカードキーを持って近くの先生方の所へ。」

僕らはとりあえず、ファーストのいないところへ集中してた。
そのせいで、ラミアス先生のもとには、ファースト以外誰もいなかった・・・と、其の時

 ガラッ

「すみません・・・ハァ・・・ハァ・・・諸事情により・・・遅刻・しま・・した!!」

息を切らし、金髪の少女が駆け込む。
そして、皆の視線を集めたまま、少女はラミアス先生のもとへ・・・と思いきや

「すまん、遅くなった。」

そう、慇懃な言葉をカードキーを通そうとしているファーストに言ったのだ.

教室中が騒然となり、僕達は、本日二度目のショックを受けたのだった。

「申しわけありません、教官。あの、」
「ああ、いえ、話は・・・聞いています。ともかく、出席を・・・」
「あ、はい。すみません」

なぜか、ラミアス先生は彼女の扱いに、あたふたと対応し、少女は少女であわててカードキーを取り出すのだった。

そうして始まった授業は、ファーストの一人舞台となると思いきや、金髪の少女も、かなりの腕前で、皆気を抜けないと、いつもよりも緊張したものとなった。



誰よりもずば抜けた力。
誰よりもずば抜けた実力。

言葉より如実に、態度にでるのは、畏怖と敬意。