それでも平和な僕らの日常   6





どうしてだろう。
うまくいかない事だらけ。
そうして僕らは傷つけあうの?

守りたいっていつだって願っているのに。


「キラッ」
「アスラン・・・」

下校途中、校門から出ないうちに後ろから声を掛けられ、キラは振り返る。
声の主はわかっている。
幼なじみの声を間違えるはずもない。

「今日、何処にいたんだ?」
「え・・・」
「模擬戦前の実技じゃいつも見つけられないけど・・・」
「あ・・・」

いつもだったらきいてこないことをアスランにたずねられ、キラは口篭もる。
答えられるはずもない。
いつだって、こんな自分に嫌気が差す。
その気になれば、誰よりもMSを使いこなす事のできる自分なんて・・。

「・・・・」
「・・・・」

いえないままに黙っていると、アスランも、黙ったまま歩くから、自然と二人の間には沈黙がおりる。
キラは、そんな事いえないと感じ、アスランは、なぜ言ってくれないのかと、内心焦りと焦燥を募らせていた。


言えるはずがない。
そんな自分、知られたくない。
嫌われたくない。
でも何より、本当の事なんて教えられない。
教えちゃいけないから。
誰にも、アスランにも・・・・言ってはいけない秘密。

キラの中で重くのしかかる、言葉。



どうしていってくれない?
それすらも、教えてもらえる場所にはいないのだろうか?
本当は嫌われていたとしたら。
自分という存在は別にいらないのだと思われていたら。
自分はどうするだろう。
どうなるだろう。

アスランの中で交錯する思考。


「アスラン」

と、二人がぐるぐると考えを巡らせながら校門まで来ると、甘い女性の声がした。

「・・・・ラクス!?」

アスランが息をのみ、目を見開いて驚きをあらわにした。

「お久しぶりです。」

にっこりと笑った少女は、ピンクの長い髪と、優しげな容貌を惜しげもなくさらしてそこにたっていた。

「どうして此処へ?」
「ええ、少々野暮用がありまして、せっかくですから、アスランの姿を見たくなりましたの。」

にっこりと言われた言葉に、キラは、胸か痛かった。
この親しげな美少女と、アスランの関係が見えない。
だって、知らない。
こんな少女の存在すら。

「・・・・アスラン、僕邪魔みたいだから先に帰るね。」
「キラッ」

キラの突然の反応に、アスランは焦り、腕をつかむ。

「待ってくださいな。」

そして、ゆったりとした少女の声に、抵抗しようとしたキラの動きは、とどめられてしまった。

「私こそ、邪魔をしてしまったみたいですし、先に帰りますわ。」
「え・・・あの・・・」
「婚約者の制服姿と言う物に興味を持ってしまって此処まできただけですし。」

そう、一人苦笑して、ラクスは去ろうとしたが、

「いえ、本当に、邪魔なんかじゃないですし、僕、今日は早く帰らないと・・・・じゃぁ、また明日ねっ」

前半はラクスに、後半はアスランに、一息に言い放ち、キラは走り去ってしまった。

「キラ!」
「あらあら・・・」

こうなっては、半ば修羅場である。

「・・・ラクス・・・」
「何ですの?」
「何のようできたんですか?」

アスランは、ラクスを見ないままに、剣呑な雰囲気で低音を搾り出す。

「その前に、このまま立ち話をする気ですの?」

にっこりと微笑むラクス。
そして、校門の前に人だかり。
ふと、アスランはこのラクスが、プラントでは超有名な歌姫である事を思い出す。

「こっちへ。」

強引にラクスの腕をつかむと、アスランは駆け出した。
いつもいらないというのに迎えに来る車。
今日は、今日だけはそれに感謝し、乗り込んだ。


「で、なんのようです?」
「大切な用事ですわ。」
「そうですか。その大切な用事というのは、人のプライベートを侵害する事ですか?」
「いいえ。」

重々しいうなるようなアスランの声とは対照的に、ラクスは軽やかに話す。
笑顔を絶やさないままに。

本当に、この人は・・・・と、アスランは食えない歌姫に毒づく。

「じゃあ、何であんな思ってもいない事を言うんですか。」
「良いじゃないですの。相思相愛なのですし。」

「・・・・ラクス?」

ラクスの台詞に、反応が一拍遅れる。

「なんですか」
「相思相愛って、誰がですか。」

両者の間に沈黙がおりる。

「まさか・・・・・一方通行でしたの?」

可愛らしく両手を口元に当てているが、アスランからは憎たらしいばかりだ。
そんな、ハッキリといわなくても言い事をと、思ってしまうのは、やはり、痛恨の一撃をさらりと食らわされたということなのだろう。

「あらあら・・・」
「ラクス・・・人で遊ぶのも大概にしてくださいよ?」
「そんな事してませんわ。心外ですわね。
今日は、婚約の事で、少々ご相談があってまいりましたのよ?」


たくさんの言葉を交わしてきた。
たくさんの言葉を投げかけられてきた。

しかし、この日に出たラクスの言葉以上に嬉しいと感じた言葉はなかった。
いつだって、ろくでもないことをしてくれるこの歌姫に、初めて感謝する。