それでも平和な僕らの日常   8



シュミレーションの中で、MSを駆りながら、君の事を思う。

遠い君。
遠い日々。

何もかもが、どうでも良くなる。
君が大切で、怪我をさせたくなくて、戦った、腕を磨いた。
そんな日々はもう遠く遠く。
今までの事などすべて、無駄な行為であったのだという気分になる。


一体、また一体とMSを壊す。
それらは全て、他の生徒たちが操っている。
もと友軍だった敵機。
どの人も癖を覚えている。
友軍を撃たないように、どれだけ敵機を撃つ事が出来るか。
僕の脳内にある情報は、其れを容易にする。
自軍の動きのまとまらぬ事など、問題ではなくなるくらい、僕は・・・。

「・・・・くそっ」

今日の相手はコーディネーター。
しかも、イザークの率いる隊だから・・・

「手ごわいな」

呟き、周囲の状況を把握する。
どこかに穴があるはずだ。
誰も気付かなくてもいい。
自分がそこをつけばいいのだから。

それだけだ。
大丈夫。
カガリは意外と人をまとめる事がうまいから。



  『イザークそこっ』
  『五月蝿い!わかっている!!』
  『あーもー二人ともやめてくださいよ。』



以前だったら、届くだけの回線からそんな声が聞こえてきた事もあった。

「・・・ちょっと前の事なのに、懐かしんでたらおしまいだね・・・・。」

自嘲気味に笑い、見渡す。


君が隣りにいない。
いつも、いつも、君は僕の隣りで助けてくれた。
返答をしなくても、声が届く事に安堵していたのは、本当は、助けられてきたのは、自分だった。
だから、少しでも安全な場所にと、思って・・・。







MSのコックピットを模ったそれに納まり、360゜見渡せる視界の中から、それの戦いを見る。

飛んでは薙ぎ。薙いでは弾き。そしてまた飛ぶ。
量産型のストライクに乗ってはいるが
其の姿。其の戦い。
それは、紛れもなく“ファースト”の動きだった。
もとコーディネーター側のエースパイロットの・・・。
そしてまた、“ファースト”が隊長機ではない事に気が付く。
今までもなぜかそうだったから、今更気にもとめないが、あんなに強くても、何考えているのかわからないのだから、隊長機であっても、微妙なところ・・・・といったとこであろうか。
どこまで行っても―――

『あらら、あの噂って本当だったんだな。』
『どーすんだよあれ。』

軽い口調で、二人分の声が届く。
それにちょっといらっとしつつ、声のトーンをさげる。

「・・・無駄口を叩く暇があったら、一体でも倒せ。」

回線越しに響く声に、冷たく言い放ち、観察する。
相も変わらず隙がない。
隙を突けたかと思えば、すぐに反応し、切り返す。

シュミレーションの中で、ランダムで決められた機体を駆りながらせわしなく辺りを見渡す。

使えそうなのはうやはり、自分たちだけ。
そう判断すると、イザークは鋭く指令を飛ばす。

「あの厄介な機体から落とすぞ!」

其の言葉に、たくさんの了解という声が届いた。

「まず、ディアッカは一個小隊と共に奴までの道を開け。
ラスティーはディアッカの通った後から奴に素早く仕掛けろ。
俺は回りこんで奴の死角を狙う。残りは派手に他のやつ等を狙え。特に、隊長機をな。
ディアッカは、ラスティーの事を悟らせるなよ。」
『おう』
『りょ〜かいっ』

了解!と、硬い言葉が届く中、二人の声は他のメンバーたちよりも軽い調子で届く。

今更になって、オーブがしゃしゃり出てきた事に腹が立つ。
面倒で厄介な敵。
今更、ナチュラルとコーディネーターとが仲良くなれるはずもない。
今更・・・今更なのだと、イザークは思う。

授業中のシュミレーション。

今はまだ、本当の機体同士の戦いではないけれど、いつか本当に戦わなければならなくなる気がする。
いつか、この学校にいるたくさんの生徒が、軍に入るのだろう。
ここにある溝が、全てとなるだろう。


此処はまだ、平和な日常。
今はまだ、日常の延長線上。
でも、これは本当の平和なのか・・・?

この延長線上は、ヘイワな世界―――?