それでも平和な僕らの日常 12
「もういいよ。茶番は終わりにしよう。」
「キラ?」
この手で決着をつけてしまおう。
そして、この日常と言う名の平淡な劇に幕を閉じてしてしまおう。
だって、いらない。
手に入るものじゃないものをねだったりしない。
初めからわかっていたから。
ただ、ちょっと幸せの形を、日常と言う形を、彩ってみたかっただけなのだから。
「今季のMS戦終ったら、本格的に初めよ。政治の勉強」
「でも、まだ卒業までは時間が・・・」
「ね?早いほうが良いって、ウズミ様も言ってたでしょ?カガリのためにも、それがいい。
君は、早くウズミ様の役に立てるようになりたいって言ってたんだし。丁度いいじゃない」
にっこりと笑い、時間だといって出て行ってしまった。
「でも・・・・お前それでいいはずがないだろ・・・・」
誰もいない自分の部屋で、佇んで呟いた。
良くないと。
反論させず、自分のエゴと諦めを押し付けてさっさと出ていってしまった相手へ。
聞いてなどいないとわかっていながら。
握り締めた手のひらに、ずっと決めていた、秘めていた、決意を握り締めるように、力をこめる。
絶対に落とさないように。
諦めないように。
無くさないように。
大切な大切な従弟。
形だけの婚約者。
たった一人の、本当の兄弟・・・。
彼と自分の関係は複雑で、難解。
政治的な目論みも絡むこの関係に、いつか終止符を打たなければならない。
例え、それが自分を育てた、父の思惑であったとしても・・・・。
デスクに置かれた末端に触れ、凛とした声で命じる。
「彼女と繋いでくれ。」
向こう側では、其れを了解する腹心の声がした。
君は諦めてはいけない。
諦めない事を覚えなければならない。
諦め切れないと思う事を、手放してはいけない。
自分は其れを、良しとはしない。
大切な君だから。
シーゲル・クラインは、痛い頭を抱えたまま、家へはいった。
居るか居ないかもわからないが、娘に『ただいま』と投げかけながら。
「まぁ、お帰りなさいませ。」
にっこりと微笑む容姿。
ふわふわの髪。
優しい声音。
ちょっと癖のある笑い方で・・・。
「お父様」
「ああ、帰ったよ。」
軽く抱き交わし、居間へと入って行く。
目の前を行く少女を見るともなしに見ながら、溜息を一つだけ。
「ラクスは、何処にいったんだい」
そして、口火を切る。
娘そっくりな少女に向かって。
「・・・ご飯」
「?」
「そろそろお夕飯の時間ですわ。今日は、ご一緒してくださるんでしょう?」
突然に話を切られて、振り返って、甘えるように腕に抱きつかれる。
15年、ずっと一緒に暮らしてきた娘と似て非為る娘。
「ああ。」
「まぁ、嬉しいですわ。」
満面の笑みを返された。
其れは、只無邪気な笑み。
無邪気で、少女らしい笑み。
「何時から・・・わかっていらしたんですか?」
「無理をしなくていい。いつも通り話してかまわないよ。」
手には、ナイフとフォーク。
向き合って食事をしながら、彼女は意を決したように問う。
その、力の入ったまま緊張している肩を見ると、とてもかわいそうなことを強いている気がしてしまう。
「・・・そうですか?でも、その・・・」
「はは、そうだね、緊張してしまうだろう。まぁ、話しやすいように言うといい。」
ウィンクすると、クスクスと少女は声を立てて笑い、ハイと言った。
「君の事は、かなり前から、うすうすとは・・・・ね。」
「え・・・」
「これでも、彼女の親だからね。私も」
苦笑すると、少女はバツの悪そうな顔で俯いた。
「わ・・わたし・・・・」
「でも、それでもいいと思っていたから、放って置いたんだよ。彼女は、自分でたくさんのものを見、触れ、吸収していった。
自分の道も全て、自分で模索している・・・ように見えるのは、親の欲目かもしれないがね。」
「いいえっラクス様はとても強くて強くて、でも、とても、おやさしくて・・・・」
少女の言葉にはいっぺんの嘘も、偽りもなく、響く。
「ああ。だから、今回も何か考えがあっての事なのだと思ってそうしていたのだが・・・少々・・・ね・・・」
わらって頷きながら言いつつ、語尾をにごらせる。
その態度に対して、少女は首を傾げる。
政治的な事に、普通の子供は精通しては居ないだろう。
自分の子供の異質さをあらためて感じさせる少女だ。
「そう言えば、君の名前を聞いていなかったな・・・。」
「え・・・」
「聞いてもいいかな?」
「み・・・ミーヤ・キャンベルといいます。」
「そうか。ラクスの居場所を、聞いてもいいかな?ミーヤさん」
おずおずと言われた名を口にする。
彼女の気持も、ラクスの思いもわからないが、今の最重要事項は、ラクスの命そのもの。