それでも平和な僕らの日常 14
あんたがそれでもいい。
関係が無いから。
誰が、何であっても
存分に戦って
存分に殺しあえばいい
お互いに命をかける。
擦り減った命がどうなろうとも関係ない。
だって、いくらでも変えが利くから。
こんな肉の塊に、意味は無い。
そうだろ・・・?
「君たち、困るんだよねぇ。あまり問題を起してもらうとさぁ。」
学校の応接室。
ソファーの上には、高級さなど無視した三人と、それに違和感無く座る男が一人。
だがしかし、其の男の着るスーツは、ソファーの色とは調和せずに、浮いている。
それほどに、其のオーダー製のスーツは趣味が悪かった。
「僕も、立場があるんですよ。君たちを送り込んだというね。」
ねちっこい口調に、ねめつける眼光。
其れは、とても黒く黒く、闇に染まっている香りを醸し出していた。
それに三人は、ほとんど反応せず、三者三様、視線を合わせてはいる者も居れば、明後日の方向を見ている者も居た。
男はそれに、こめかみをぴしぴしとさせたが、それ以上は反応せず、とにかく。と、付け加える。
「これ以上、練習中故意に殺すなよ。」
「は〜い」
「・・・」
「わかってる」
今度は、とりあえず三人はそれぞれ意思表示を渋々とした。
男はそれに、真っ黒な笑みを深くする。
「わかってますよね?変えはいくらでもいるんです。いくらでも、交換する事はできる。
君らは、チャンスを得る事ができただけに過ぎない。一方通行の切符を、たまたま手にしただけなんですよ。」
男は、そう釘をさすと、部屋を後にしようとする。
趣味の悪いそのスーツのすそに、一人が手を伸ばす。
ツンッ
引っ張られた瞬間、思わぬ方向から力が加わった其の男は、驚いた顔をした。
「・・・何です?」
「・・・俺、見たんだけど。」
「はぁ?・・・なにを?」
「ファーストの中身。」
ソファーにだらしなく身をあずけた緑の髪の少年は、其の相手を見上げる。
反対に、男は其の少年を見下ろし、興味深そうに視線を投げかける。
其の瞳は気だるげに、何かを求めている。
「二人ともさっさと戻りなさい。」
「はいはい」
「わかりましたよ〜だ」
二人は其の少年のみを残し、其処を立ち去る。
其の足取りは、何も気に留めていない。
好奇心のカケラも無く、立ち去って行った。
それに、大抵の者はいぶかしむだろう。
しかし、彼等はそう生まれ、育てられた。
それが、日常と言うものだった。
「・・・・」
「・・・・」
部屋の中には沈黙。
それから、衣擦れの音。
言葉を欲せず、言葉を与えず、其の快楽に身をゆだねる。
何のためらいもなく、自分の其れのために其の情報を引き合いに出した。
何度も何度も穿たれた楔を、欲して。
何度も何度も染められた闇へ落ちるために。
熱の中で、揺れる天井が、いつもと何か違った。
闇へ落ちながら、其処へ誰かを落とす夢を見る。
染めて、汚れて、そしたら・・・
「あいつも好きだよな〜」
「・・・放っておけ。どうせ、俺らの最後は変わらん」
「ハイハイ。」
廊下を二人歩く。
何も変わらない。
何処にもいけれない。
何処にも行かない。
行く必要性と、行く事のできる場所を知らないから。
箱庭の中で、目隠しをして、そして手に入れる現実なんて、夢とさほど変わりはしない。
シュルッ
「・・・・」
「動ける様になったら授業に戻るんですよ。」
情事が終ると、男はさっさと服を身につけ、ネクタイをきっちり締めながら事務的に言葉を紡ぐ。
其の後ろ姿には、さっきまでの行為のカケラも見受けられない。
そして、まだ気だるげにソファーで突っ伏するその相手に目もくれず部屋から出る。
頭の中は、シャニのもたらした情報の事でいっぱいだった。
これをどうすればいいだろう。
どのように攻撃すれば、効果的だろう。
コーディネーターなどに、いつまでものさばらせてなどいられない。
しゃしゃり出てきたオーブにも、何も渡しはしない。
この世界は、ナチュラルだけでいいのだ。
それだけで。
個人情報を、情報の海から、探し出そう。
其の身の回りから、一番弱いところを探そう・・・・。
ああ、なぜあいつに、其れを聞かなかったのだろう。
一瞬後悔したが、すぐに思い直す。
どうせ知らないだろうと。
そう、何が効果的だろう。
其のパイロットにとっての“特別”を探し出そう。
それから・・・・
心が躍った。
通称“ファースト”。
彼の存在は、ただただひたすらに邪魔だったのだ。
「青き清浄なる世界のために・・・・」
暗い暗い呟きが廊下で霧散する。
誰も知らないままに。
そして、暗い暗い笑い声が反響する。